ちょっとしたことですぐに悲しくなる | ぼやき。

ちょっとしたことですぐに悲しくなる

ぱたぱたと仕事の時間が終わり、そのまま家に直帰はもったいなくて、ついついカフェに寄り道し、星の王子様なんていうロマンチックの塊みたいな本を読み、そんでデパ地下で足を止める。
目の前には、ショーケースに並んだケーキたちが、ぐったりとそこに佇む姿。
時計を見れば、閉店まで10分程度、なのにショーケースは売れ残ったケーキたちで犇めいている。見た目はそう悪くない。平凡だけど美しく整った三角形のショートケーキ、明るいきいろのモンブラン、口いっぱいに生クリームを詰め込まれたシュークリーム。どれも口に入れれば、それなりの幸せを私にくれたに違いない。そんな彼らは今、疲れきった顔で閉店を待っている。店員のおばちゃんが縋るような目で私を見つめている。
私は彼らの人生と末路を想像した。
機械で大量生産されて、一斉に箱詰めされて出荷されて、そうして辿り着いたショーケース。通り過ぎる人間を今か今かとわくわくしながら眺め、それがだんだんと切羽詰まったものになっていく。誰か私を買って、食べて、そう願い続けるのに、こちらを見る人は誰もいない。やがて、彼らは諦める。ピンと張っていた角はしおれてぐったりしていく。食べてもらうはずだった。食べてもらうためだけに生まれてきたのに、それさえかなわず、きっと最期は工場で廃棄。それでジエンド。
私はとうとう財布を出さなかった。
ひとつ買ってしまったら、残り全部の彼らの悲しみに耐えきれない気がした。
おばちゃんが寂しそうにため息をついた。
泣きたいのは私のほうだった。
ケーキ屋さんというのは、夢を売る仕事だと私は知っている。
売られていくケーキは誰かの夢だ。
捨てられた夢ほど、切ないものはない。

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